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星明かりの更新

真っ直ぐ立つために、少しの呪いを添えて。現人神へと変わるまで、リターンズ。

『風の歌を聴け』を読んだ

はじめに

「その小説に何を見たんだ?」

 感想を書き始める際に、自分に聞いた質問です。僕は自分の見た小説について分かりやすく語ろうと考えていました。そのために伝えたいことをまとめようと思いましたし、どの文章を引用するか迷ったりもしました。
 
 例えば答えのないミステリーなら、自分の回答を述べてその根拠を挙げればいいのでしょう。ではその回答が自分の中に存在しなかったなら、どうすればいいのでしょうか。

 自分の理解が及ばないものに答えを見つけるよりも、とにかく見たものについて書いてみようと思います。象使いのことは知りませんし、象のことすら分かりません。その肌の堅さも、体の大きさや重さも分かりはしませんが、とにかく鼻が長かったとだけは書いておきます。僕に書けるのはきっと、それだけなのですから。

あらすじ

 20代最後の年を迎えた「僕」は、21歳の夏の物語を語り始める。

 東京の大学に通う「僕」は、夏休みに港のある街に帰省した。夏休みの間、「僕」はジェイズ・バーで、友人の「鼠」と、とりつかれたようにビールを飲み続けた。
 
 「僕」は、バーの洗面所に倒れていた女性を介抱し、家まで送った。そこから物語は進んでいく。彼女には左の小指がなかった。

 ※Wikipediaから改悪
http://ja.m.wikipedia.org/wiki/風の歌を聴け

 

感想

 ネタバレを含む可能性がありますのでご注意ください。

 きっと僕には物語のパズルを繋いでいく根気は無いのだろう。例え物語に必要なピースがすべて揃っていたって、繋ぎ合わせられそうにない。僕は極めてインスタントな刺激を求めているし、欲求も満たされている。そこから更に深く深く潜ろうとは考えられず、これは僕個人での限界なのだろう。

 個人の限界を超えるために道具がある。それは目に見えるものかもしれないし、目に見えないものかもしれない。触れるし、触れない。そしてそれは生きていて、または生きていないこともある。本というのもまた、見方によれば一つの道具だ。僕の限界を超えるためのね。

 物語の完成に興味は持てないし、その技法や技術なんてものにも明るくない。それなら読んで楽しかった、つまらなかったを書くしかないだろう。読書家でもなく、勤勉でもない。深い洞察力があるわけでもなく、夕方にアルバイトが待っているような人間には、それだけの文章しか書くことができない。そして、それが僕だ。


 本文中から、印象に残った文章を引用しよう。

 文明とは伝達である。表現し、伝達すべきことが失くなった時、文明は終る。

 また、こうも言っている。

 もし何かを表現できないなら、それは存在しないのも同じだ。

 僕が本を読んだ感想を書かなかったならば、この本を読んだことは伝えられなかっただろう。悪評を届けるくらいなら何も表現しない方が、そうやっていっそ存在すらしない方が増しだとも言えるのだろうけれどね。

 例えば、僕は何を伝えたいと思ったのか。情報とは誰かが伝えようとして初めて存在しうると聞く。今、僕は文章を書いている。そしてそれは情報であり、表現だ。

 僕が表現したいのは自身の存在と、この本の内容が分からない、ということだ。分からないからと黙ってしまえば、僕自身の存在さえ深遠に飲み込まれてしまうだろう。僕は僕自身の生存のために「分からない」と声を荒げる他ないのだ。

 生存戦略。きっと何者にもなれないお前たちと告げられる。凡百に埋もれたその表現は、はたして表現たるや。表現できず、存在できない自分に価値はあるのか。自分がいる理由は?

 僕は何によって覚えられたいか。実在している自分と違って、僕の存在理由は比較的自由の中にある。何者かになりたいのなら、そう在れるだけの土壌がある。とは言え、それも簡単でない。誰かに伝達できなければ、つまり読者が存在しないのであれば、僕は何者でもなく、そしてここに存在すらしていないのだろうから。

 表現の壁は薄くなり、これから先は壁も無くなっていくことだろう。それにつれて表現は数え切れないほどに増えていく。では読者、その伝達先はどうか。パイには限りがある。もはやパイに表現は収まらないだろう。人間には限界があるからだ。さて、僕の分のパイは残っているかな。

 そんなわけで、僕のレゾン・デートゥルは錆びついた。

おわりに

 最後の一文が書きたかっただけなのかもしれないですね。僕は表現と伝達が気になりました。

 僕も「僕」と同じ21歳に追い付こうとしています。重なり合うことの方が少ない「僕」の言葉。不快というよりも理解が追いつかない作品でした。他の人はどんな記事を書いて、どんな言葉を語るのでしょうか。楽しみですね。

 それでは、そのときまで。またいつか。


 パチン……OFF。